NIMBY化しつつある再エネ施設
再生可能エネルギー施設の導入をめぐり全国各地でトラブルが続いている。東日本大震災を契機に国内外でさまざまな議論があったが、今日では再エネの導入拡大が国策であることは周知のとおりで、その是非が問われることはもはやほとんどない。にもかかわらず、地域で反対や紛争が起こるのは再エネがNIMBY施設化していることを暗に示している。NIMBY(ニンビー)とはNot In My Back Yardの頭文字をとったもので、事業の必要性は理解できるものの「私の裏庭ではノー」、つまり「総論賛成各論反対」を指す。総論では再エネを支持するが、自宅近隣での建設では反対態度に変わることを意味する。これまではごみ焼却場や原子力発電施設などでしばしば用いられることがあった表現である。再エネはかつてクリーンなエネルギーと謳われていたものの、最近はNIMBY施設あるいは迷惑施設とすら言われるようになってしまった。
このように再エネを厄介者として扱う態度は地域エゴとの批判もあるだろう。しかし、施設の存在や稼働によって住民生活や自然環境が脅かされるおそれがあることは事実である。また、発電した電気が直接的に自分たちの生活のために使われることはほとんどなく、電気代が安くなるわけでもない。事業者によっては周知や説明が足りず、半ば強引に事業を進めようとするケースもある。「カーボンニュートラル」や「脱炭素」という言葉がどこか空虚に他人事に聞こえてしまうこともあるかもしれない。
NIMBYからPIMBYへ
これまで環境政策に関わる立場から、地域と再エネの共生のあり方を模索してきた。どうすれば再エネ施設をNIMBYからPIMBY(Please In My Back Yard)へ、地域から歓迎される施設へ転換できるかという問題意識がその根底にはある。環境政策の観点からその答えを見出すとすれば、適切な環境配慮に尽きるが、最近は疑問に感じることがある。なぜなら、環境配慮策としての環境アセスもゾーニングも事業によるネガティブな側面をゼロに近づけようとするものであって、どれだけ丁寧なプロセスを踏んだとしてもそれだけで地域にとってポジティブな価値を生み出すことはできないからだ。地域共生型の再エネを実現するために、環境アセスやゾーニングが不可欠であることは言うまでもないが、それらだけで地域共生を実現しようとすることにはいささか無理がある。
では、地域共生型の再エネはいかにして実現するのか?再エネ導入による地域メリット創出には3つの軸があり、①地域課題の解決や産業振興面での社会的貢献、②売電収益の一部を地域還元する経済的貢献、そして、③発電した電力を地域に供給するエネルギー的貢献である。
ここで興味深いデータを紹介しよう。図は太陽光発電施設の周囲3kmに居住する住民の施設への賛否態度をアンケート調査によって明らかにした結果である。図の右は建設の際に地域住民から反対が起こった施設で、左はパネル下部で農業を行うソーラーシェアリング施設であり、施設の導入にあたり市民出資を募ったり、災害時に住民へ電源を開放したりするなど、地域共生型再エネのお手本といえるような事例だ。図右の反対があった施設においては約8割(「反対」と「やや反対」で76%)が当該施設に否定的な態度を表明している一方、図左の地域共生型施設の場合は約8割(「賛成」と「条件によっては賛成」で77%)が肯定的態度を示している。逆に市内での施設導入については、反対があった施設では55%が肯定的態度を示したが、地域共生型施設においては否定的態度が増加、肯定的態度の割合が減少した。つまり、反対があった施設では典型的なNIMBY現象がみられたが、地域共生型施設ではその反対の結果で施設が地域の誇りとして認知され地域に歓迎されていることが示唆された。
ソーラーシェアリングは売電目的で営農が形式的になっているケースがあるとも聞いている。今後は地域共生型のグッドプラクティスが広がっていくことで再エネがPIMBY施設へと転換していくことを期待したい。
この記事の著者
東京工業大学環境・社会理工学院
錦澤 滋雄
1997年 東京工業大学工学部卒業、2002年 同大学院博士課程修了、博士(工学)、滋賀県立大学 講師を経て、2009年 東京工業大学 准教授。環境省・太陽光発電の自主的な環境アセスメントガイドラインに関する検討会・座長、北海道せたな町・再生可能エネルギー協議会・副会長などを歴任し、現在、那須塩原市再生可能エネルギー導入促進に向けたゾーニング検討会・会長、洋上風力発電の環境影響評価制度の諸課題に関する検討会・委員、国際協力機構・環境社会配慮助言委員会・委員、環境アセスメント学会・理事などを務める。現在の専門は、環境アセスメント、再生可能エネルギーの合意形成。
1997年 東京工業大学工学部卒業、2002年 同大学院博士課程修了、博士(工学)、滋賀県立大学 講師を経て、2009年 東京工業大学 准教授。環境省・太陽光発電の自主的な環境アセスメントガイドラインに関する検討会・座長、北海道せたな町・再生可能エネルギー協議会・副会長などを歴任し、現在、那須塩原市再生可能エネルギー導入促進に向けたゾーニング検討会・会長、洋上風力発電の環境影響評価制度の諸課題に関する検討会・委員、国際協力機構・環境社会配慮助言委員会・委員、環境アセスメント学会・理事などを務める。現在の専門は、環境アセスメント、再生可能エネルギーの合意形成。
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