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2050脱炭素社会に向けた技術と社会の共進化(2)
東京大学

わが国は「2050年カーボンニュートラル(CN)」を宣言しているが、温室効果ガスの9割以上は二酸化炭素が占めており、その殆どはエネルギー由来である。このため、産業革命以来の変革の波が、エネルギー分野に押し寄せている。本コラムでは、2050年CNに向けて、今後生み出されるであろう新技術をどのように社会実装していくのか、「技術と社会の共進化」の視点から数回に分けて論じる。前回は、レコード、電話、テレビなどが昭和・平成・令和の時代を経てどのように進化してきたか、「技術と社会の共進化」「セクターカップリング」などをキーワードに振り返った。このような変化を頭に置きつつ、エネルギー分野を俯瞰してみよう

目次

    <第二章>

    日本のエネルギーセクターに必要なものは何か


    この30年間、わが国のエネルギー分野においては、イノベーションやセクターカップリングに相当するようなものは全く起きなかったと言って良い。電力やガスの自由化が行われて多少の相互乗り入れは見られるようになったものの、電力業界、ガス業界、石油業界の壁は厳然としてあるし、社会との関わりにおいて実態は何も変わっていない。このような「縦割り構造」がある限り大きな変革はなかなか起きない。それでもあえて変化を挙げるとすれば、太陽光発電や風力発電を中心とする再生可能エネルギー電力の導入拡大と原子力発電の衰退ぐらいだが、これらにしても一次エネルギーのシェアの数値が変わっているのみで、ライフスタイルを変化させるようなイノベーションにはなっていない。2050年CNを見据えて、「セクターカップリング」をキーワードに「技術と社会の共進化」をどう進めるのかが、未来の扉を開くカギになる。

    世界ではCNの実現を目指し、各国の政策と投資が連動して進みつつある。コロナ禍の状況でもこの流れは変わらないどころか、むしろ加速している。コロナ禍からの経済回復を狙う「グリーンリカバリー」は、今や世界的な成長のキーワードとなっている。エネルギー需要の観点では、CN達成に不可欠な輸送用燃料の脱炭素化に向けて世界的に急速なEVシフトが起こることは間違いない。これは、結果的に電力需要の増大に繋がる。グリーン水素も再生可能エネルギー電力から作るものであり、電力需要の増大に行きつく。ただし、世界では水素単独のサプライチェーンは未完成で、燃料電池車の普及も進んでおらず、2030年にグリーン水素が主流になることはない。やはり2030年の主役は電力であり、2050年に向けてグリーン水素の利用が進むとしても、電力を軸にした中で水素をどのようにうまく組み合わせて行くか、即ちエネルギー分野のセクターカップリングをどう進めるかが鍵になる。

    ドイツは2030年温室効果ガスの削減目標を-63%とし、再生可能エネルギー電力の割合を65%まで引き上げる目標を発表している。ドイツの場合、最大電力需要日でも8000万kW程度だが、2030年の再生可能エネルギー電力導入目標合計が約2億kWでピーク需要の約2.5倍となっている。この数字は、セクターを超えたエネルギーマネジメントによって成り立つ合理的な数字である。ドイツは、2003年以降ずっと「電力輸出国」であり、かつ再生可能エネルギー電力比が現在でも約5割なので、その環境価値のついた電力をEU諸国に販売拡大する戦略も見てとれる。これに加え、2020年6月、ドイツ連邦政府は「国家水素戦略」を採択しているが、その中で対象とする水素は「グリーン水素」すなわち再生可能エネルギー電力で作る水素であることを明示している。2030年までに水素電解プラントを500万kW規模まで拡大し、グリーン水素14TWhの供給を目指す。また、2040年までにこれを1000万kW規模まで拡大するとしている。ちなみに、2021年末には「脱原発」も完了する予定であり、原子力発電に頼らずにCNを目指す明快な方針がはっきりわかる。

    大事な点にお気づきいただけただろうか。ドイツでは一次エネルギーシェアの分け合いは戦略の中心にはない。日本のエネルギー基本計画では、「エネルギーミックス」と称して各業界に配慮しながら数字を積み上げているだけで「戦略」には全くなっていない。戦略とは、「いつまでにガソリン車を廃止するのか」、「住宅の省エネ基準をどこまで引き上げるのか」、「石炭火力発電をいつまでに廃止するのか」、「再生可能エネルギー発電設備をどれくらい導入するのか」といった具体的目標を決め、それに向けて具体的行動を起こすことだ。一次エネルギーシェアは目標として定めるべきものでなく「単なる結果」に過ぎない。具体的戦略なしにいくらシェアの目標だけ決めても、いったい誰が厳しい削減行動をとってくれるのか。セクターごとのシェアを割り付けるだけでは、決してセクターカップリングは起きない

    2050年脱炭素社会の実現に必要なイノベーションに向けて


    今後一層の発展が見込まれるIT産業は、ハード的にはエネルギー多消費産業であり、多くの企業体が脱炭素化と再生可能エネルギー導入拡大を進める姿勢を見せている。アップルやグーグルがその先頭に立ち、日本でもNTTグループが独自の直流送電網整備を発表するなど、こうした既存のエネルギー事業者以外からエネルギー分野に新規参入するセクターカップリングが進みつつある。日本の場合は、地域のマイクログリッドの整備や独自の送電網の整備、オフグリッドの電力利用などがレジリエントなエネルギーインフラを実現する上でも必要であることから、社会的ニーズも高い。そのツールとして、ZEBやZEHに貢献する建材一体型太陽光モジュールなどの他、電動車、通信、データセンター、IoT(Internet of Things)機器などへの電源供給を担う様々な再生可能エネルギー技術も必要になる。また、再生可能エネルギーの出力予測も重要になる。Society 5.0が描く日本の未来図(図1)を見ると、気象情報、発電所の稼働状況、EVの充放電、各家庭での使用状況といった様々な情報を含むビッグデータをAIで解析することにより、「的確な需要予測や気象予測を踏まえた多様なエネルギーによる安定的エネルギー供給」「水素製造やEV等を活用したエネルギーの地産地消、地域間融通「供給予測による使用の最適提案などによる各家庭での省エネ」などが想定されている。このような取り組みをいかにエネルギー分野に取り込むのかが、2050年CN実現の鍵になるだろう。<第三章に続く>


    図1 Society 5.0新たな価値の事例(エネルギー)出典:内閣府ホームページ
    https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/energy.html


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    この記事の著者

    東京大学 瀬川浩司
    東京大学
    瀬川浩司
    1989年 京都大学大学院工学研究科博士課程修了(工学博士)、京都大学助手、東京大学 助教授 を経て、2006年 東京大学 先端科学技術研究センター 教授。2016年 東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 教授。2020年東京大学 大学院工学系研究科 化学システム工学専攻 兼担教授。2012年~現在 東京大学 教養学部 附属教養教育高度化機構 環境エネルギー科学特別部門長として東京大学の環境とエネルギーの教育にあたる。2019年 科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)。現在の専門は、次世代太陽光発電。
    1989年 京都大学大学院工学研究科博士課程修了(工学博士)、京都大学助手、東京大学 助教授 を経て、2006年 東京大学 先端科学技術研究センター 教授。2016年 東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 教授。2020年東京大学 大学院工学系研究科 化学システム工学専攻 兼担教授。2012年~現在 東京大学 教養学部 附属教養教育高度化機構 環境エネルギー科学特別部門長として東京大学の環境とエネルギーの教育にあたる。2019年 科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)。現在の専門は、次世代太陽光発電。
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